赤いビニール幕に包まれた屋台「포장마차(ポジャンマチャ)」は、韓国の夜を彩る名物風景。仕事帰りの人々が集い、簡単なつまみとお酒を囲む、庶民の社交場です。

ポジャンマチャってどんな場所?

表現 読み方 意味
포장마차 ポジャンマチャ 屋台・移動式の飲み屋(直訳は「幌馬車」)

「포장(幌)+마차(馬車)」が語源というだけあって、かつては移動式の屋台が主流でした。今では常設の店構えも増えていますが、赤いビニール幕とプラスチック椅子という気取らない雰囲気は健在。トッポッキやオデン、ホルモン焼きなど、庶民的なつまみが並びます。

目上の人と飲むときのマナー

ポジャンマチャは職場の同僚や友人との一杯が定番ですが、目上の人と同席することも。韓国では目上の人からお酒を注がれたら両手で杯を受け、飲むときは少し顔を横に向けるのがマナーとされています。これは相手への敬意を示す所作で、年齢や上下関係を大切にする文化が根底にあります。

ポジャンマチャの定番つまみ

ポジャンマチャの主役はお酒と同じくらいつまみです。串に刺した練り物を煮込んだ「오뎅(オデン)」、豚の背骨を煮込んだ「감자탕(カムジャタン)」、鶏の丸焼きに似た「통닭(トンダク)」など、家庭料理とはひと味違う庶民的な一品が並びます。値段も手頃で、少量ずつ何品も頼んでシェアするのがポジャンマチャならではの楽しみ方。友人と何軒かはしごする「2차(イチャ=2次会)」文化も、韓国の夜の風物詩のひとつです。

乾杯の一言も添えて

表現 読み方 意味
건배! コンベ 乾杯!

「건배(コンベ)」は漢字の「乾杯」がそのまま韓国語読みになった言葉。グラスを合わせるときは、目上の人のグラスより少し低い位置で合わせるのが礼儀です。堅苦しく考えすぎず、まずは笑顔で乾杯の一言を交わしてみましょう。

アジコトのレッスンでは、食事や乾杯の場面で使えるフレーズも紹介しています。

店主や店員さんは「이모」と呼ばれることも

表現 読み方 意味
이모님! イモニム すみません!(直訳は「叔母様」)

ポジャンマチャで店員さんを呼ぶとき、名前を知らなくても「이모(イモ=叔母さん)」または丁寧に「이모님(イモニム)」と声をかけるのが定番。血のつながりはなくても、親しみを込めて家族の呼び方で呼びかける、韓国語らしい習慣のひとつです。男性の店主には「사장님(サジャンニム=社長さん)」と呼びかけることもよくあります。

ポジャンマチャのルーツをたどる、「避馬(피마)」の道

ソウル・鍾路(チョンノ)には、かつて「피맛골(ピマッコル)」と呼ばれる細い裏路地がありました。「避馬」の名の通り、身分の低い庶民が大通りを行き交う高官の行列を避けて通った、朝鮮王朝初期にまでさかのぼる600年以上の歴史を持つ道です。この裏路地には庶民向けの居酒屋や国밥(クッパ)屋が数多く軒を連ね、身分に関係なく気軽に一杯できる場所として親しまれてきました。今のポジャンマチャ文化の気取らない雰囲気は、こうした「庶民のための飲食街」という歴史の延長線上にあるとも言われています。ピマッコルの多くは再開発で姿を消しましたが、一部は保存・復元され、今も往時の雰囲気を伝えています。

ポジャンマチャの歴史的な背景

피맛골のような庶民の飲食街の系譜を経て、今のポジャンマチャという業態そのものの原型は、朝鮮戦争後の混乱期に生まれたと言われています。物資が乏しい時代、屋台のような簡易な形態で商売を始めた人々が、安価で温かい料理とお酒を提供する場として発展してきました。時代とともに常設店舗化が進んだ今も、あの赤いビニール幕の見た目や気取らない雰囲気は、当時の名残として大切に受け継がれています。庶民の暮らしの歴史そのものが、この屋台文化には刻まれているのです。

今、若い世代がポジャンマチャに惹かれる理由

再開発などで街から姿を消しつつあったポジャンマチャですが、近年は20〜30代の若い世代の間で、あえてその素朴さを楽しむ「感性ポジャンマチャ(감성포차)」として再評価される動きが広がっています。きっかけの多くはSNS。個性的な雰囲気やこだわりのつまみで話題になった店が、ブログやインスタグラムを通じて口コミで広がり、若者たちが足を運ぶようになりました。慌ただしい日常を忘れさせてくれるレトロな空気感が、かえって新鮮な魅力として受け止められているようです。古くからの常連客と、SNSで見つけてやってきた若者が同じ屋台のテーブルを囲む光景も、今のポジャンマチャならではの面白さといえます。

「회식」――職場の飲み会文化とポジャンマチャ

ポジャンマチャが夜な夜な賑わう背景には、韓国独特の「회식(フェシク=職場の飲み会)」という文化があります。仕事終わりに上司や同僚とお酒を酌み交わしながら親睦を深めるこの習慣は、単なる息抜きではなく、職場の人間関係を円滑にするための社会的な場としても位置づけられてきました。まず1軒目で食事をしながら乾杯し、「2차(イチャ=2次会)」でポジャンマチャや別の店に移動する、という流れが定番。近年は働き方の変化とともに회식の頻度を減らす企業も増えていますが、今もなお会社帰りの人々でポジャンマチャが賑わう大きな理由のひとつです。旅行者が現地の会社員グループに混じって飲む機会は少ないですが、平日の夜にスーツ姿の集団で賑わう屋台を見かけたら、その日の회식の様子だと思うと、街の見え方が少し変わってきます。

一人でも気軽に飲める「잔술」という選択肢

表現 読み方 意味
잔술 되나요? ジャンスル トェナヨ グラス一杯だけ注文できますか?

ボトル単位での注文が基本になりがちな居酒屋文化の中で、昔ながらのポジャンマチャには「잔술(ジャンスル=グラス売り)」という一杯単位でお酒を注文できる仕組みが残っている店もあります。一人でふらっと立ち寄って、つまみ1品とマッコリ一杯だけ楽しむ、という気軽な飲み方がしやすいのもこの文化のおかげ。グループでのにぎやかな飲み会のイメージが強いポジャンマチャですが、実は一人客への間口も広いというのは、旅行者にとって覚えておきたいポイントです。

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参考

本記事で触れた歴史的背景です。

  • 피맛골(避馬路) ― ソウル・鍾路にあった庶民の裏路地。朝鮮王朝初期にさかのぼる歴史を持つとされる、庶民向け飲食街のルーツ。
  • 朝鮮戦争後の屋台文化史 ― ポジャンマチャは戦後の混乱期に、簡易な形態で商売を始めた人々によって発展してきたとされる。

よくある質問

Q. ポジャンマチャはどこにありますか?
繁華街や駅の周辺、住宅街の路地など、夜になると各所に現れます。地元の人でにぎわっている店を選ぶと、外れが少ないでしょう。

Q. お酒が飲めなくても入れますか?
もちろん問題ありません。ジュースやサイダーを頼んで、雰囲気とつまみを楽しむ人もたくさんいます。

Q. 「2次会」とはどんな文化ですか?
1軒目で食事とお酒を楽しんだあと、場所を変えて飲み直す習慣です。ポジャンマチャは2次会の定番の行き先のひとつとしてもよく選ばれます。

Q. 店員さんを「이모」と呼ぶのは失礼にあたりませんか?
いいえ、むしろ親しみを込めた自然な呼びかけとして広く使われています。旅行者が使っても好意的に受け止められることがほとんどです。

Q. 平日の夜にスーツ姿の集団をよく見かけるのはなぜですか?
「회식(フェシク)」と呼ばれる職場の飲み会の帰りであることが多いです。特に金曜の夜は会社帰りのグループで賑わう店が増えます。

Q. 一人分だけお酒を頼むことはできますか?
店によっては「잔술(ジャンスル=グラス売り)」に対応しており、一杯単位で注文できます。すべての店にあるわけではないので、心配なら入店時に確認してみましょう。