「アジアの言語を学んでみたいけれど、韓国語・ベトナム語・タイ語・インドネシア語のどれから始めればいいか分からない」——そんな迷いを持つ人は少なくありません。実はこの4言語、日本語話者にとっての難しさのポイントがそれぞれまったく違います。この記事では「文字」「発音」「文法」「語彙」「学びやすさの相性」の5つの軸で、4言語を横並びに比較しながら、自分に合った1言語目の選び方をじっくり考えていきます。
結論:文字を避けたいならインドネシア語、語順の違和感を減らしたいなら韓国語
先に結論から言うと、「始めやすさ」を重視するならインドネシア語と韓国語が候補です。インドネシア語はローマ字表記で声調がなく、文字を新たに覚える必要がありません。韓国語は文字(ハングル)の習得に数日かかりますが、語順が日本語と同じで、規則性の高い文字は一度覚えると応用が効きます。一方、ベトナム語・タイ語は声調があるため発音面の学習負荷がやや高くなりますが、独自の文字や声調のリズムそのものを楽しめるタイプの人には十分に向いています。以下の表で4言語の主要な違いを一覧できます。
| 言語 | 文字 | 声調 | 語順 | 類別詞(助数詞) | 検定試験 |
|---|---|---|---|---|---|
| 🇰🇷 韓国語 | ハングル(表音文字、独自体系) | なし | 日本語と同じ(SOV) | あり(日本語と近い感覚) | TOPIK(韓国国立国際教育院) |
| 🇻🇳 ベトナム語 | ローマ字+声調記号 | あり(6声調) | 英語型(SVO) | 必須に近く種類も豊富 | 各国機関の検定試験あり |
| 🇹🇭 タイ語 | タイ文字(独自体系、声調記号含む) | あり(5声調) | 英語型(SVO) | 必須に近く種類も豊富 | 各国機関の検定試験あり |
| 🇮🇩 インドネシア語 | ローマ字(新たに覚える文字なし) | なし | 英語型(SVO) | あるが日常会話では省略されることも多い | 各国機関の検定試験あり |
文字:覚える記号の数がまったく違う
もっとも差が出るのが文字です。韓国語とは、朝鮮半島で話される言語で、独自の表音文字ハングルを使います。ハングルは子音と母音を組み合わせて音を作る文字体系で、たとえば「괜찮아요(大丈夫です)」のように、パーツの組み合わせのルールさえ覚えれば、理論上は数時間〜数日で読めるようになると言われています。ハングルは15世紀に世宗大王が「誰でも数日で学べる文字を」という思想のもとに作らせた文字体系で、実際に規則性が高く、独学でも比較的短期間で「読める」段階に到達しやすいのが特徴です。
ベトナム語とは、ベトナムの公用語で、ローマ字(アルファベット)に声調記号を乗せた表記(クオック・グー)を使う言語です。文字自体は日本語話者にもなじみやすい形です。もともと漢字(チュノム)で表記されていた時代もありましたが、17世紀にポルトガルをはじめとするヨーロッパのイエズス会宣教師らによって基礎が作られたローマ字表記が、その後のフランス統治期を経て公式の文字として広く普及しました。タイ語とは、タイの公用語で、子音・母音・声調記号が独自の文字体系を持つ言語です。母音記号が子音の前後左右上下に散らばって配置されるため、4言語の中でもっとも文字習得の負荷が高いと言われます。インドネシア語とは、インドネシアの公用語で、ローマ字表記そのものを文字として使うため、新たに文字を覚える必要がありません。「まず読めるようになりたい」なら、インドネシア語がもっとも早く報われる言語です。
発音:声調があるかないか
タイ語とベトナム語には声調(同じ発音でも音の高低・上げ下げで意味が変わる仕組み)があります。タイ語は5声調、ベトナム語は6声調です。タイ語には「ไม้ใหม่ไม่ไหม้ใช่ไหม(マイ・マイ・マイ・マイ・チャイマイ=新しい木は燃えないですよね?)」という、同じ発音「マイ」が5回登場するのに声調の違いだけでまったく別の単語になる有名な一文があります。ベトナム語も同様に、ma(幽霊)・mà(でも)・má(頬)・mả(墓)・mã(コード)・mạ(苗)と、声調ひとつで6つの別の単語になります。
韓国語とインドネシア語には声調がなく、日本語話者には比較的取り組みやすい部類に入ります。ただし韓国語には日本語にない微妙な子音の区別(平音・激音・濃音、たとえば「가」「카」「까」のような3種類の「カ」行の音)があり、聞き分け・言い分けにはやはり慣れが必要です。インドネシア語は子音・母音とも比較的日本語に近く、ローマ字読みに近い感覚で発音できることが多いのも学びやすさのポイントです。
文法:語順と類別詞
語順は、韓国語だけが「主語+目的語+動詞」の日本語に近い語順で、残る3言語(ベトナム語・タイ語・インドネシア語)は英語に近い「主語+動詞+目的語」です。たとえば「私はパンを食べる」は、韓国語では日本語と同じ並び(私は・パンを・食べる)になりますが、他の3言語では「私は・食べる・パンを」という順序になります。この違いは、フレーズを組み立てるときの感覚に大きく影響します。
また、ベトナム語やタイ語には、ものを数えるときに使う「類別詞(助数詞)」があり、ほぼすべての名詞に専用の類別詞が必要です。日本語にも「1本」「1枚」のような数え方がありますが、この感覚は多くの日本語話者にとって新しい発見になるはずです。インドネシア語にも類別詞(buah/orangなど)はありますが、研究上は「任意的類別詞言語」に分類されており、日常会話では省略されることも多く、日本語ほど必須ではありません。敬語の仕組みも言語ごとに置き場所が違い、韓国語は動詞の活用、タイ語は文末の一言(ค่ะ/ครับ)、ベトナム語は呼び方の選択(anh/chị/emなど)、インドネシア語は二人称の使い分け(kamu/Anda)で丁寧さを表します。
語彙:日本語との距離
語彙の面では、韓国語は漢字語(音読みに近い単語)が多く、「가족(家族)」「도서관(図書館)」「계산(計算)」のように日本語の音から推測できる単語が少なくありません。一方タイ語・ベトナム語・インドネシア語は日本語とは語族が異なるため、単語をひとつずつ覚えていく必要があります。ただしベトナム語にも漢字由来の語彙(漢越語)が一定数あり、中国語や日本語の音読みと似た響きを持つ単語に気づけることがあります。
学びやすさの相性:自分のタイプで選ぶ
文字を読むこと自体にワクワクするタイプの人には、規則性が高く達成感を得やすい韓国語のハングルが向いています。逆に「新しい文字を覚える時間を惜しんで、すぐ会話に入りたい」というタイプには、ローマ字表記のインドネシア語が最短ルートです。音楽やリズム感が好きで、声の抑揚を真似るのが得意なタイプなら、声調のあるタイ語・ベトナム語も苦にならないどころか、むしろ楽しめる可能性があります。語順が日本語と同じかどうかにストレスを感じやすい人は、韓国語のとっつきやすさを実感しやすいでしょう。
疑問文の作り方にも、言語ごとの個性が出る
「〜ですか?」という疑問文の作り方も、4言語で個性が分かれます。韓国語の会話では、文末の丁寧な言い切りの形(요など)を保ったまま、イントネーションを上げるだけで質問として成立する場合が多く、文の構造自体は大きくは変わりません。タイ語も同様に、文末に「ไหม(マイ)」を付けるだけで疑問文になります。ベトナム語は文末に「không?(〜ですか?)」を添えたり、「được không?(できますか?)」のような決まった形を使うことが多く、インドネシア語も文末のイントネーションや「-kah」という接尾辞で疑問を表すことがあります。総じて、4言語とも英語のように語順を大きく入れ替える必要がなく、文末に一言添えるだけで疑問文が作れるという点は、日本語話者にとって取り組みやすいポイントです。
「読める」までの体感の早さを比べる
4言語を実際に学び始めた人の体感として、もっとも早く「あ、読めた」という感覚を得やすいのはインドネシア語です。ローマ字をそのまま読めばよいため、単語カードを見た瞬間に発音がイメージできます。韓国語は、最初の数日こそハングルの組み合わせルールを覚える負荷がありますが、ルールさえ飲み込めば、あとは未知の単語でも初見でスラスラ読めるようになる「型」の言語です。タイ語は、子音・母音・声調記号がすべて独自の記号のため、最初の「読める」実感を得るまでにいちばん時間がかかりますが、その分、読めるようになったときの達成感も大きいという声もよく聞かれます。ベトナム語は文字自体はローマ字なので抵抗が少ない一方、声調記号(アクセント記号のようなもの)の読み方に少し慣れが必要です。
4言語に共通する、日本語話者にとっての救い
文字も文法も声調の有無もバラバラな4言語ですが、共通して日本語話者にとって助けになる点もあります。ひとつは、外来語(特に英語由来の単語)が多いこと。「체크인(チェックイン)」「เช็คอิน(チェックイン)」「check-in」のように、ホテルや空港などの近代的な場面の語彙は、意外と英語の音がそのまま輸入されているケースが多く、耳にした瞬間「あ、聞いたことある音だ」と気づけることがあります。もうひとつは、どの言語も「ください」「お願いします」にあたる一語を、注文したいものの名前にくっつけるだけで通じるシンプルな組み立てを持っていること。文法をすべて理解していなくても、この「万能の型」さえ知っていれば、屋台でも市場でも最低限のやり取りができてしまいます。
結局、どれから始めればいい?
「文字のハードルを避けたい」ならローマ字表記のインドネシア語、「語順の違和感を減らしたい」なら韓国語、「アジア旅行や屋台文化を楽しみたい」ならタイ語やベトナム語、というように、目的によって最適な入口は変わります。「どれが簡単か」よりも「どの国のどんな場面で使いたいか」を軸に選ぶと、学習が長続きしやすいというのが実感です。アジコトでは4言語すべてで、同じ「旅の場面」を舞台にしたレッスンを用意しているので、実際に少しずつ触れながら自分に合う言語を見つけることもできます。
否定文の作り方にも、言語ごとの違いが表れる
「〜ではない」「〜しない」という否定の表現にも、4言語それぞれの個性があります。韓国語は動詞の前に안(アン)を置けば「〜しない」、能力や事情でできないことを表すときは못(モッ)を使うという、2種類の否定を使い分ける仕組みを持っています。ベトナム語も動詞の前にkhông(コン)を置くだけで否定文になり、「まだ〜していない」を表すchưa(チュア)という専用の形もあります。タイ語はไม่(マイ)を動詞や形容詞の前に置くだけとシンプルで、名詞の否定にはไม่ใช่(マイチャイ)という別の形を使う点に注意が必要です。インドネシア語は動詞・形容詞の否定にtidak(ティダ)、名詞の否定にはbukan(ブカン)という、日本語にはない使い分けがあります。4言語に共通しているのは、否定の言葉を動詞や形容詞のすぐ前に置くだけというシンプルな型で、この位置さえ覚えれば、否定文を作ること自体はどの言語でもそれほど難しくありません。
「その先」の資格試験の充実度にも差がある
旅行会話を超えて本格的に学びを続けたくなったとき、実は4言語で「その先」の環境にも差があります。もっとも整っているのは韓国語で、韓国の国立国際教育院(NIIED)が実施する試験「TOPIK(韓国語能力試験)」が世界各地で実施されており、初級の1・2級から上級の5・6級まで、自分の実力を客観的に測れる仕組みが整っています。韓国への留学や、韓国関連の仕事を目指す場面でTOPIKのスコアが活用されることも多く、学習のモチベーションにもなる存在です。ベトナム語・タイ語・インドネシア語にもそれぞれ検定試験は存在しますが、TOPIKほど国際的に知名度が高く、体系立って運用されている試験は今のところ多くありません。「資格として形に残したい」という気持ちが学習の原動力になるタイプの人には、この点も言語選びの隠れた判断材料になるかもしれません。
関連記事
個別のフレーズ比較も合わせてどうぞ。「ください」を4言語で言うと?、「ありがとう」の言い方、4言語でこんなに違う、敬語とタメ口、4言語での使い分けを比較するでは、この記事で触れた文法の違いを具体的なフレーズで体感できます。次に学ぶ言語で迷っている人は韓国語の次に学ぶならどの言語? 目的別診断も参考になります。
参考
本記事の一部の記述は、以下の事実を踏まえて執筆しています。
- ハングルの成立:15世紀、朝鮮王朝第4代国王・世宗(セジョン)大王のもとで制定された文字体系
- TOPIK(韓国語能力試験):韓国・国立国際教育院(NIIED)が実施する公式試験
- インドネシア語の類別詞:言語学における「任意的類別詞言語(optional-classifier language)」の分類
よくある質問
Q. 4言語の中でいちばん簡単なのはどれですか?
「簡単」の基準が文字・発音・文法のどれを重視するかで変わるため一概には言えませんが、文字のハードルだけで見るならローマ字表記のインドネシア語がもっとも取り組みやすい言語です。逆に発音のハードルだけで見るなら、声調のない韓国語・インドネシア語が入りやすいといえます。
Q. 結局、どの言語から始めるのがおすすめですか?
「文字のハードルを避けたい」ならローマ字表記のインドネシア語、「語順の違和感を減らしたい」なら韓国語、「独自の文字や声調のリズムそのものを楽しみたい」ならタイ語・ベトナム語がおすすめです。「どれが簡単か」よりも「どんな場面で使いたいか」を軸に選ぶと、学習が長続きしやすくなります。
Q. 2言語以上を同時に学んでも大丈夫ですか?
混同しやすい部分はありますが、旅行先ごとに使う言語がはっきり分かれていれば問題ありません。同時学習のコツは、アジコトの学習法の記事でも紹介しています。
Q. 声調がある言語は独学でも習得できますか?
声調は繰り返し耳で聞いて真似ることで身についていきます。最初から完璧を目指さず、まずは音の高低差があることを意識するだけでも聞き取りが変わってきます。
Q. 漢字を知っていると韓国語やベトナム語で有利になりますか?
韓国語の漢字語、ベトナム語の漢越語は、どちらも日本語の音読みと似た響きを持つ単語が一定数あります。すべての単語に当てはまるわけではありませんが、語彙を推測する手がかりとして役立つ場面はあります。
Q. 検定試験を目指すなら韓国語が一番おすすめですか?
「資格として実力を証明したい」という目的であれば、国際的に運用されているTOPIKがある韓国語は選びやすい面があります。ただし他の3言語にも検定試験はあるので、資格の知名度だけでなく学びたい目的も含めて選ぶのがおすすめです。