血のつながりがなくても、年齢や立場に応じて相手を「兄」「姉」「お父さん」と呼ぶ——インドネシア語の呼びかけには、家族を大事にする価値観が表れています。
年上は「カカ」、年下は「アディッ」
| 表現 | 読み方 | 意味 |
|---|---|---|
| kakak(kak) | カカ(カ) | 年上の人への呼びかけ(兄・姉にあたる) |
「kakak(カカ)」は年上の人を呼ぶときの言葉で、実の兄や姉に限らず、店員さんや少し年上の知り合いにも広く使われます。短く「kak(カ)」と呼びかけることも多く、日常会話に欠かせない表現です。逆に年下には「adik(アディッ)」、略して「dik(ディッ)」が使われます。
知らない大人には「バパッ」「イブ」
初対面の年配の男性には「Bapak(バパッ)=お父さん」、女性には「Ibu(イブ)=お母さん」という呼びかけがよく使われます。日本語の「お父さん」「お母さん」のような血縁の呼び方が、社会全体で年配者への敬称としても機能しているのが特徴です。役所や店先など、フォーマルな場面でも広く使われます。
地域によって変わる呼び方のバリエーション
共通語の「カカ」「アディッ」に加え、地域によっては独自の呼び方が使われることもあります。ジャワ島の一部地域では年上の男性に「mas(マス)」、年上の女性に「mbak(ムバ)」という呼び方が広く使われ、都市部の飲食店やホテルでもよく耳にする言葉です。こうした呼び方の違いは、地方語が今も暮らしに息づいていることの表れでもあります。どの呼び方を使っても失礼にはあたらないので、耳にした言葉を真似てみるのも旅の楽しみ方のひとつです。
呼び方に表れる、家族的なつながり
血のつながりのない相手を家族の呼び方で呼ぶ習慣は、コミュニティ全体を大きな家族のように捉える感覚の表れともいわれます。旅先で親切にしてくれた人に「Terima kasih, Kak!(ありがとう、お姉さん!)」と呼びかけてみると、ぐっと親しみが伝わるはずです。
アジコトのレッスンでは、こうした呼びかけのフレーズも紹介しています。
さらに年配の方には「カケッ」「ネネッ」
| 表現 | 読み方 | 意味 |
|---|---|---|
| Kakek / Nenek | カケッ / ネネッ | おじいさん / おばあさん |
「Bapak」「Ibu」よりもさらに年配の方には、「Kakek(カケッ=おじいさん)」「Nenek(ネネッ=おばあさん)」という呼び方が使われます。血のつながりがなくても、祖父母世代への敬意を込めた呼びかけとして自然に使われる表現で、「カカ→バパッ・イブ→カケッ・ネネッ」と、年齢が上がるにつれて世代を表す呼び方に切り替わっていくのが、インドネシア語の呼びかけ文化の面白いところです。
西ジャワでは「カン」「テテ」――スンダ語の呼び方
| 表現 | 読み方 | 意味 |
|---|---|---|
| Kang / Teteh | カン / テテ | 年上の男性 / 年上の女性への呼びかけ(スンダ語) |
ジャワ島の「mas」「mbak」に対し、バンドンを中心とする西ジャワのスンダ語圏では「Kang(カン)」「Teteh(テテ)」という独自の呼び方が使われます。インドネシア語・ジャワ語・スンダ語はいずれも同じオーストロネシア語族に属する兄弟言語ですが、「ありがとう」ひとつをとっても、インドネシア語の「Terima kasih」、ジャワ語の「Matur suwun」、スンダ語の「Hatur nuhun」とまったく異なる単語が使われるほど、それぞれ独立した言語です。地方語というと方言のようなイメージを持たれがちですが、実際には別の言語を学ぶのに近い違いがあることを知っておくと、島ごとに耳にする呼びかけの多様さがより一層興味深く感じられます。
ジャカルタ生まれの呼び方、「アバン」「ノネ」
| 表現 | 読み方 | 意味 |
|---|---|---|
| Abang / None | アバン / ノネ | 年上の若い男性 / 年上の若い女性への呼びかけ(ベタウィ語) |
ジャカルタの原住民族とされる「ベタウィ族」の言葉にも、独自の呼びかけがあります。「Abang(アバン)」は若い男性への、「None(ノネ)」は若い女性への呼びかけで、屋台の店主や物売りへの呼びかけとして今も街なかで使われています。この2つの言葉は、1968年から続くジャカルタの観光文化大使選抜コンテスト「Abang None Jakarta(アバン・ノネ・ジャカルタ)」の名前にも使われており、ベタウィの伝統文化と現代の若者文化を橋渡しする象徴的な存在として、毎年多くの若者が参加する人気の催しになっています。地方から移り住んだ人が多いジャカルタで、こうした原住民の言葉が今も呼びかけとして生き続けているのは、興味深い発見です。
名字は母から子へ、ミナンカバウの母系社会
血縁がなくても家族の呼び方を使う文化と並んで、インドネシアには家族のあり方そのものがユニークな地域もあります。スマトラ島西部のミナンカバウ族は、世界でも有数の規模を誇る母系社会として知られ、家系(マルガ)も土地や家などの財産も、母から娘へと受け継がれていきます。子どもの教育やしつけを担うのも父親ではなく、母方のおじ(ママ)という役割分担も特徴的です。「お父さん」「お母さん」を敬称として使う呼びかけ文化の奥に、地域によってはこうしたまったく異なる家族の構造が広がっていることを知ると、インドネシアという国の多様性の奥深さが一段と実感できます。
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よくある質問
Q. 年齢が分からない相手にはどう呼びかければいいですか?
迷ったときは「Kak(カ)」と呼びかけておけば、幅広い年代に自然に使えます。
Q. お店の店員さんへの呼びかけにも使えますか?
はい。「Kak」や「Mas/Mbak」は、お店やレストランで店員さんに声をかけるときの定番の呼びかけです。
Q. かなり年配の方にはどう呼びかければいいですか?
「Kakek(カケッ=おじいさん)」「Nenek(ネネッ=おばあさん)」という呼び方が使われます。血縁がなくても、祖父母世代への敬意を込めた呼びかけとして自然です。
Q. 「Kang」「Teteh」はどこで使われていますか?
バンドンなど西ジャワのスンダ語圏でよく使われる呼び方です。旅行者が共通語のインドネシア語で呼びかけても問題ありませんが、現地の呼び方を使うと、より親しみを持ってもらえることがあります。
Q. 「Abang」「None」はジャカルタでも今でも使われていますか?
はい、特に下町の屋台や市場で今も使われている呼びかけです。「Abang None Jakarta」という文化大使コンテストの名前にもなっており、若い世代にも親しまれています。
Q. ベタウィ族とはどんな人々ですか?
ジャカルタの原住民族とされる人々で、独自の言語ベタウィ語や伝統文化を今に伝えています。多くの移住者が暮らす大都市ジャカルタの中で、地元文化を象徴する存在です。
Q. ミナンカバウ族の「母系社会」とはどんな仕組みですか?
家系や財産が母から娘へと受け継がれる社会の仕組みです。子どもの教育は父親ではなく母方のおじが担うなど、日本の一般的な家族観とは大きく異なる特徴があります。