予定が変わっても、頼んだものと違うものが出てきても、タイの人はよく笑顔でこう返します。「ไม่เป็นไร(マイペンライ)」。このひとことに込められた、タイならではの穏やかな価値観を見ていきましょう。

「マイペンライ」ってどんな言葉?

表現 読み方 意味
ไม่เป็นไร マイペンライ 気にしないで・大丈夫・問題ありません

直訳すると「何ということもない」。謝られたときの「気にしないで」、トラブルが起きたときの「まあいいか」、感謝されたときの「どういたしまして」まで、幅広い場面で使われる万能フレーズです。

「サヌック」を大切にする価値観

タイの人が大切にする価値観のひとつに「สนุก(サヌック)=楽しい」があります。仕事も遊びも、何事も「サヌック」であることが大切、という考え方が根づいており、細かいことにこだわりすぎず物事を楽しもうとする姿勢が「マイペンライ」の精神ともつながっています。仏教の「執着しない」という教えの影響を指摘する人も少なくありません。

「タイ式マイクロマネジメント」とは無縁の空気感

タイの職場や日常の場面では、細部にこだわりすぎず大枠が合っていればよしとする、おおらかな仕事の進め方がしばしば見られます。これは決して物事をいい加減に扱っているわけではなく、「完璧を求めすぎてストレスをためるより、ゆとりを持って対応する方がうまくいく」という価値観の表れだと考えられています。旅行者にとっても、多少の予定変更やハプニングに出会ったとき、この「マイペンライ」の精神を思い出せば、旅そのものをより楽しめるようになるはずです。

旅先で「マイペンライ」に出会ったら

電車が遅れても、注文を間違えられても、まずは「マイペンライ」と返してみましょう。自分が何かミスをしてしまったときも、相手から「マイペンライ」と言われたら、深刻に受け止めすぎず「ではお言葉に甘えて」くらいの気持ちで受け取るのがタイ流です。

アジコトのレッスンでは、こうした気持ちを表すフレーズも紹介しています。

現代版マイペンライ、「ชิลๆ(チルチル)」というスラング

表現 読み方 意味
ชิลๆ チルチル のんびり・気楽に(英語chillから)

近年、若者の間でよく使われるようになった「ชิลๆ(チルチル)」は、英語の「chill」がタイ語風に定着したスラング。「今日は予定なくてチルチルしてる」のように、のんびり気楽に過ごす様子を表します。言葉自体は新しくても、根っこにある「肩の力を抜いて物事を楽しむ」という感覚は、「マイペンライ」や「サヌック」と地続きの価値観だといえます。

怒らない文化の裏側にある、「เกรงใจ(グレンジャイ)」という気遣い

「マイペンライ」がその場の穏やかさを保つ言葉だとすれば、その背景にある心の動きを説明する言葉が「เกรงใจ(グレンジャイ)」です。「グレン(恐縮する)+ジャイ(心)」という組み立てで、相手に迷惑や負担をかけることへの遠慮・気兼ねを表します。たとえばタイの家に招かれて「コーヒーはいかがですか」と聞かれても、「グレンジャイだから」と遠慮して「お水で結構です」と答える人が少なくありません。この感覚は、争いごとを避けて周囲との調和を保とうとするタイ社会の価値観と深く結びついており、「マイペンライ」でトラブルを水に流す姿勢と、「グレンジャイ」で最初から相手に負担をかけまいとする姿勢は、いわばコインの表と裏の関係にあります。旅行者としては、現地の人が何かを遠慮している様子を見せたら、無理に勧めすぎず「本当にいいので」と一言添えてあげると、かえって喜ばれることもあります。

「タイタイム」――時間感覚にも表れる、ゆとりの精神

「マイペンライ」の精神は、時間の感覚にも表れているとよく言われます。俗に「タイタイム」と呼ばれる、待ち合わせや納期に対するおおらかな姿勢がその一例。バンコクの電車やバスには細かい時刻表がなく、おおよその運行間隔が分かる程度で、それを気にする人もあまり見られません。渋滞が慢性化しているバンコクでは、時間通りに到着すること自体が難しい場合も多く、遅れは個人の意識というより避けようのない交通事情によることも少なくありません。旅行者としては、待ち合わせに多少の余裕を持たせておく、遅れても「マイペンライ」の精神でおおらかに構える、というくらいの気持ちでいると、旅のストレスがぐっと減ります。

「微笑みの国」というブランドが生まれた背景

タイが「微笑みの国」と呼ばれるようになったのは、実は1960年代、サリット政権のもとタイ政府観光庁が打ち出した観光振興キャンペーンがきっかけだったといわれています。ただしこのニックネームは完全な作り話ではなく、アユタヤ王朝時代(14〜18世紀)にタイを訪れた外国人旅行者たちが、言葉が通じなくても笑顔で応対するタイの人々を指して「Siamese Smile(シャムの微笑み)」と呼んでいた記録も残っています。つまり「微笑みの国」は、もともとタイの人々の気質に根ざしていた特徴を、政府が国のブランディングとして戦略的に打ち出し、世界的に定着させた成功例なのです。「マイペンライ」の穏やかさも、この長く受け継がれてきた「微笑み」の伝統の延長線上にあると考えると、より深く理解できます。

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参考

本記事で紹介した情報の主な出典:

  • タイ政府観光庁 ― 1960年代に「微笑みの国」を打ち出した観光振興キャンペーンの実施主体

よくある質問

Q. どんな場面でも「マイペンライ」と言って大丈夫ですか?
基本的には広く使える便利な言葉ですが、深刻なトラブルの場面ではきちんとした謝罪や説明も必要です。あくまで日常の小さな出来事に向く表現です。

Q. 謝られたときの返事としても使えますか?
はい。「すみません」と謝られたときの「気にしないで」という返事としても、もっとも自然な一言です。

Q. 「サヌック」はどんな場面で使われる言葉ですか?
仕事や勉強、家事など、あらゆる物事に対して「楽しくやろう」という姿勢を表すときに使われます。タイの人の柔軟な物事の捉え方を象徴する言葉のひとつです。

Q. タイの人に何かを勧めて断られたら、どう受け止めればいいですか?
本心から不要というより「グレンジャイ」で遠慮している場合もあります。しつこく勧める必要はありませんが、一度だけ「遠慮しないでくださいね」と伝えてみると、気持ちよく受け取ってもらえることもあります。

Q. バスや電車が時間通りに来ないのはなぜですか?
細かい時刻表を設けず、おおよその運行間隔で案内している路線が多いためです。慢性的な渋滞も影響しており、余裕を持ったスケジュールを組むのがおすすめです。

Q. タイが「微笑みの国」と呼ばれるようになったのはいつからですか?
1960年代の政府観光庁のキャンペーンがきっかけとされていますが、その起源はアユタヤ王朝時代の旅行者の記録にまでさかのぼるといわれています。