日本語には「敬語」と「タメ口」がありますが、この仕組み、韓国語・ベトナム語・タイ語・インドネシア語にはどこまで存在するのでしょうか。4言語の敬意表現の置き場所を比較しながら、それぞれの仕組みの奥深さまで詳しく見ていきます。
韓国語:文法そのものに敬語がある
韓国語は4言語の中でもっとも日本語に近い敬語システムを持っています。文末の形を変えるだけで丁寧さのレベルが変わり、代表的なものだけでも「합니다体(かしこまった敬語)」「해요体(やわらかい敬語)」「반말(タメ口)」の3段階があります。アジコトのレッスンで学ぶ「〜요(ヨ)」で終わる形は、旅行や日常会話でもっとも使いやすい「해요体」にあたります。年上の人や初対面の相手には基本的にこの「해요体」を使っておけば失礼になりません。「합니다体」はニュースやビジネスの場面でよく使われる、さらに一段かしこまった形です。
タイ語:文末の一言で丁寧さが決まる
タイ語には韓国語のような細かい活用変化はありませんが、文末に「ค่ะ(カ・女性)」「ครับ(クラップ・男性)」を付けるかどうかで丁寧さが大きく変わります。この一言を省くと、親しい間柄以外ではぶっきらぼうな印象になってしまいます。逆に言えば、この一語を文末に添えるだけでどんな文も丁寧になるため、タイ語の敬語システムは4言語の中でもっとも習得しやすい部類に入ります。話し手の性別によって単語自体が変わるという点も、他の3言語にはないタイ語ならではの特徴です。
ベトナム語:呼び方が敬語がわりになる
ベトナム語には文法的な敬語変化はありませんが、その代わりを担うのが「家族の呼び方が4言語でまったく違う理由」で紹介した「anh/chị/em」のような二人称の選び方です。相手にふさわしい呼び方を選ぶこと自体が、ベトナム語の敬意表現になっています。文末に「ạ(ア)」を添えることでも、丁寧さをさらに強めることができます。この「ạ」は目上の人への返事の最後に付けることが多く、子どもがしつけとして最初に教わる言葉のひとつでもあります。
インドネシア語:あらたまった場では「Anda」
インドネシア語も文法的な活用変化はありませんが、二人称の「あなた」に、日常会話でよく使う「kamu(カム)」と、あらたまった場で使う「Anda(アンダ)」の2種類があります。加えて、友人同士の会話ではくだけた「バハサ・ガウル(若者言葉)」がよく使われ、教科書のインドネシア語とは違う表現に出会うことも珍しくありません。ビジネスメールや初対面の会話では「Anda」を使い、親しい友人には「kamu」を使うという使い分けが基本です。
気づき:敬語の”置き場所”が言語ごとに違う
敬意を表す仕組みそのものは4言語ともにありますが、その置き場所が「動詞の活用(韓国語)」「文末の一言(タイ語)」「呼び方の選択(ベトナム語)」「二人称の使い分け(インドネシア語)」と、それぞれ違う場所にあるのが面白いところです。迷ったら、まずはアジコトのレッスンで教えている丁寧な形を使っておけば、失礼になることはありません。
敬語の習得しやすさを比べてみる
敬語システムの習得負荷という点では、文末に一言添えるだけで済むタイ語がもっとも取り組みやすく、動詞の活用まで変える必要がある韓国語がもっとも学習量を要するといえます。ただし韓国語は逆に、いったんパターンを覚えてしまえば応用範囲が非常に広いという利点もあります。ベトナム語・インドネシア語は文法的な変化がない分、単語選びのセンスが問われる敬語システムだといえるでしょう。どの言語も、まずは「もっとも丁寧な形」をひとつ覚えて、それを使い続けるだけで旅行では十分に対応できます。
「お願い」を丁寧にする、それぞれの仕組み
| 言語 | お願いを丁寧にする方法 | 例 |
|---|---|---|
| 韓国語 | 語尾を〜주세요(ジュセヨ)にする | 물 주세요(ムル ジュセヨ)=お水をください |
| ベトナム語 | 文末に ạ(ア) を添える | Cho tôi một cà phê ạ(コーヒーをひとつください) |
| タイ語 | 文末に ครับ/ค่ะ を添える | ขอบคุณครับ/ค่ะ(ありがとうございます) |
| インドネシア語 | tolong(トロン)/boleh(ボレ)を添える | Tolong bantu saya(手伝ってください) |
あいさつや呼びかけの丁寧さに加えて、「お願いする」場面での丁寧さの作り方にも言語ごとの個性があります。韓国語は動詞の語尾そのものが丁寧形になり、ベトナム語は文末に軽く「ạ」を添えるだけ、インドネシア語は「tolong(お願いします)」「boleh(〜してもいいですか)」という単語を選ぶことで丁寧さを表します。屋台や市場でのお願いごとには、この記事で紹介した表現に、それぞれの丁寧化の一言を添えるだけで十分です。
ドラマで覚えた話し方を、そのまま使わない
韓国ドラマやタイドラマで言葉を覚えた学習者がよく陥る落とし穴が、「ドラマの真似」です。ドラマでは出会ってすぐにタメ口で話す場面がよく描かれますが、現実の会話では年齢や関係性を踏まえて敬語からスタートするのが基本。カフェの店員さんに丁寧な形で「これください」と言うのは自然でも、ドラマ口調のタメ口で言ってしまうと、思いのほか失礼な印象になってしまいます。韓国語には、親しくなった相手に「말 놔도 돼요?(タメ口で話してもいいですか?)」とひとこと確認してから切り替える習慣があり、いきなりタメ口に変えるのではなく「許可を取る」というワンクッションが自然とされています。ドラマや映画は生きた表現の宝庫ですが、そこで覚えたセリフをそのまま初対面の相手に使う前に、「これは敬語かタメ口か」をひと呼吸置いて確認するクセをつけておくと安心です。
関連フレーズ
呼び方の使い分けは家族の呼び方が4言語でまったく違う理由で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
よくある質問
Q. 敬語を使わないと失礼になりますか?
初対面や目上の人には、表で紹介した丁寧な形を使うのが基本です。友人になったあとは、徐々にくだけた言い方を教えてもらうのも交流のひとつです。
Q. 旅行者はどのレベルの敬語を使えばいいですか?
どの言語も、もっとも標準的な丁寧形(韓国語なら해요体、タイ語ならค่ะ/ครับを付けた形)を使っておけば、どんな場面でも失礼になりません。
Q. タメ口を教えてもらったら使ってもいいですか?
相手が教えてくれたのであれば、親しさの表れとして使って問題ありません。ただし初対面の別の人には、また丁寧形に戻すのがマナーです。
Q. インドネシア語の「バハサ・ガウル」は覚えるべきですか?
旅行者としては必須ではありませんが、若い世代との会話で耳にする機会は多いです。基礎を固めたあとに、興味があれば少しずつ触れてみるとよいでしょう。
Q. お願いごとをするとき、丁寧さの一言を忘れるとどうなりますか?
通じないわけではありませんが、ぶっきらぼうな印象になりやすいです。特にタイ語のครับ/ค่ะやベトナム語のạは省略すると響きが大きく変わるので、フレーズとセットで覚えておくのがおすすめです。
Q. ドラマで覚えたタメ口を使ってしまい、失礼にならないか心配です
心配な場合は、初対面ではまず丁寧な形を使い、慣れてきたら「タメ口で話してもいいですか?」と一言確認してから切り替えるのが安全です。ドラマの口調はあくまで参考程度に考えましょう。