語学学習が三日坊主で終わってしまうのは、よくある悩み。無理なく続けるためのコツを、行動科学の視点も交えて紹介します。
完璧を目指さない
「今日は忙しいから明日まとめてやろう」と思っているうちに、そのまま止まってしまうのが挫折の典型パターン。完璧な1時間より、1日1フレーズでも触れることの方がずっと価値があります。ハードルを思い切り下げることが、続ける一番のコツです。「今日はこれだけで十分」と自分に言い聞かせられるかどうかが、3週間後・3ヶ月後に続いているかどうかを分けます。
学習を「生活の一部」に組み込む
「毎日机に向かって30分」ではなく、「歯を磨きながら」「通勤電車で」のように、すでにある習慣にくっつける形で学習時間を作ると、意識せずに続けやすくなります。これは行動科学で「習慣の連結(ハビットスタッキング)」と呼ばれる手法です。新しい習慣を単独で始めるより、既存の習慣に紐づけたほうが、記憶に残りやすく、継続率も高くなることが知られています。
記録を可視化する
学習した日を記録したり、連続日数を数えたりすると、「続けている自分」が目に見える形になり、それ自体がモチベーションになります。アジコトにも学習を続けた日数を数える「ストリーク」機能があり、1日休んでも記録が途切れない「シールド」というお守りも用意されています。完璧に毎日続けることにこだわりすぎず、多少の欠席があっても記録が守られる仕組みがあることで、心理的なプレッシャーがぐっと軽くなります。
「もし」を先に決めておく
行動科学では、あらかじめ「もし〇〇が起きたら、△△する」というルールを決めておく「if-thenプランニング」という手法が、習慣化に効果的だとされています。語学学習でいえば、「もし疲れて何もできない日があったら、フレーズを1つ聞くだけにする」「もし旅行で学習が止まったら、帰国後すぐに1レッスンだけ再開する」のように、つまずきそうな場面をあらかじめ想定し、そのときの最小限の行動を先に決めておくのです。こうしておくと、実際にその場面が来たときに悩まず動けるため、挫折のきっかけになりやすい「どうしよう」という迷いの時間を減らせます。
挫折しかけたときの立て直し方
数日、あるいは数週間学習が止まってしまっても、そこで終わりにする必要はありません。「また今日から」と再開すること自体が、続けている人とやめてしまう人の分かれ道です。再開初日は新しいことを覚えようとせず、以前学んだフレーズを1つ復習するだけで十分です。ハードルを下げて再スタートを切ることが、長期的に見て挫折を防ぐいちばんの方法です。
完璧を目指しすぎず、まずは今日1フレーズだけ、から始めてみましょう。
「きっかけ」を増やす、環境デザインという考え方
意志の力だけで続けようとすると、忙しい日には真っ先に後回しにされてしまいます。効果的なのは、学習を始める「きっかけ」が自然と目に入る環境をあらかじめ作っておくことです。スマホのホーム画面の一番目立つ位置にアプリを置く、通勤カバンに入れる本の上に単語カードを重ねておくなど、行動のスイッチになるものを生活の動線上に置いておくと、意志の力に頼らなくても学習に手が伸びやすくなります。
復習のタイミングには、目安となる間隔がある
「いつ復習すればいいか分からない」という人向けに、記憶の研究でよく紹介される目安を挙げると、学習した翌日・3日後・1週間後・2週間後・1ヶ月後というように、少しずつ間隔を広げながら触れ直すと記憶が長持ちしやすいとされています。毎回この通りに管理する必要はありませんが、「昨日覚えたフレーズは今日も」「先週やったところは週末にもう一度」というように、大まかな間隔を意識するだけでも復習の抜け漏れが減ります。完璧なスケジュール管理よりも、ゆるやかな目安として頭に置いておくくらいがちょうどよい距離感です。
行動が起きる方程式、「B=MAP」という考え方
行動科学の研究者BJ・フォッグは、人が行動を起こすのは「モチベーション」「実行のしやすさ」「きっかけ」の3つが同時にそろった瞬間だけだと説明しています。この3つのうち、モチベーションは日によって上下しやすく、コントロールしづらいものですが、「実行のしやすさ」は工夫次第で確実に上げられます。つまり、やる気に頼るのではなく、「レッスンを1つ開くだけ」「フレーズを1つ聞くだけ」というように行動そのものを極限まで小さくしてしまえば、やる気が低い日でも実行しやすくなるというわけです。「今日は続けられるだろうか」と不安なときほど、目標を大きくするのではなく、小さくすることが継続の近道になります。
「学習者である自分」というアイデンティティを育てる
習慣化の研究では、「痩せたい」ではなく「健康的な人でありたい」というように、行動の結果ではなく自分がどんな人でありたいかという自己イメージを先に持つほうが、習慣が長続きしやすいという考え方が知られています。語学学習でも、「〇〇語が話せるようになりたい」という結果だけを目標にするより、「自分は毎日少しずつ言語に触れる人間だ」というアイデンティティを育てていく意識を持つと、1日サボったときも「その程度で自分らしさが崩れるわけではない」と捉え直しやすくなります。ストリークが途切れても、「学び続ける自分」というアイデンティティ自体は失われない、と考えてみてください。
楽しい習慣とセットにする「抱き合わせ」の工夫
「これをやったら、あの楽しみが待っている」という組み合わせを作っておくと、気の進まない日でも手が伸びやすくなります。たとえば「好きな飲み物を淹れている間だけレッスンを開く」「お気に入りの音楽を聴きながらシャドーイングする」というように、すでに好きな習慣と学習をセットにしてしまう方法です。学習そのものを我慢して行う「やるべきこと」ではなく、楽しい時間の一部として組み込んでしまうことで、義務感を減らしながら自然と回数を重ねられます。
できなかった自分を責めない、「セルフコンパッション」という技術
心理学者クリスティン・ネフが提唱する「セルフコンパッション(自分への思いやり)」という考え方があります。学習をサボってしまったとき、「自分はダメだ」と責めるのではなく、親しい友人が同じ状況にいたらかけるであろう言葉を、自分自身にもかけてあげるという発想です。研究では、こうした自分への優しさが、失敗から立ち直る心の回復力(レジリエンス)を高めることが分かっています。「1週間サボってしまった」ときに自己嫌悪に沈むより、「忙しかったから仕方ない、今日からまた始めよう」と受け止め直すほうが、結果的に学習を長く続けられる人が多いのは、この回復力の差によるものかもしれません。挫折しない人は、実は一度も挫折しないのではなく、挫折したときの自分への接し方が上手なだけ、とも言えます。
伸びを感じなくなる「停滞期」は、誰にでも訪れる
ある程度フレーズを覚え、レッスンにも慣れてきた頃、なぜか上達を実感できなくなる時期が訪れることがあります。語学学習では、中級レベルに差しかかったあたりでこうした「プラトー(停滞期)」を経験する学習者が多いことが知られています。これは学習が止まっているのではなく、次の段階に進むための土台を静かに固めている、自然な移行期間だと捉えられています。停滞を感じたら、それまでと同じやり方を漫然と続けるより、シャドーイング中心だったなら会話練習を増やす、フレーズ中心だったなら文化的な背景を深掘りしてみるなど、あえて取り組み方を少し変えてみるのがおすすめです。「今は伸びを感じにくい時期なんだ」と知っているだけでも、停滞そのものへの焦りはずいぶん和らぎます。
関連記事
ストリークをモチベーションに変える方法は学習の記録・ストリークをモチベーションに変える方法、初心者が挫折しやすいポイントは初心者が挫折しやすい3つの壁と乗り越え方もあわせてご覧ください。
参考
本記事で触れた行動科学・心理学の考え方は以下の通りです。
- BJ・フォッグ ― 行動が起きる条件を示す「B=MAP」の提唱者
- クリスティン・ネフ ― 「セルフコンパッション(自分への思いやり)」の提唱者
- 行動科学における「ハビットスタッキング(習慣の連結)」「if-thenプランニング」という手法
よくある質問
Q. 1日休んでしまったら、そこで終わりですか?
いいえ、まったく問題ありません。休んだ翌日にまた1フレーズから再開すれば十分です。
Q. モチベーションが上がらない日はどうすればいいですか?
その日は新しいことを覚えようとせず、以前学んだフレーズを1つ声に出すだけでも構いません。「継続すること」自体を優先しましょう。
Q. ハビットスタッキングにおすすめの組み合わせはありますか?
通勤・通学の移動時間、寝る前のスマホタイム、食後のひと息つく時間など、すでに毎日発生しているスキマ時間に組み込むのがおすすめです。
Q. 「if-thenプランニング」は他の場面にも応用できますか?
はい。「もし旅行前で忙しくなったら、通勤中の音声だけにする」のように、生活の変化に合わせたルールをいくつか用意しておくと、どんな状況でも学習を完全に止めずに済みます。
Q. 「B=MAP」という考え方は、具体的にどう活かせばいいですか?
やる気が出ない日は目標を大きくするのではなく、「レッスンを1つだけ開く」のように実行のハードルを極限まで下げてみましょう。ハードルさえ下げれば、多少やる気が低くても行動に移しやすくなります。
Q. サボってしまった自分を責めてしまいます。どうすればいいですか?
親しい友人が同じ状況だったらかける言葉を、自分自身にもかけてみましょう。自分への優しさが、学習を再開する力につながることが研究でも示されています。
Q. 最近まったく上達を感じません。もうやめたほうがいいですか?
それは「プラトー(停滞期)」と呼ばれる、多くの学習者が経験する自然な段階かもしれません。やめる前に、シャドーイングを増やす、文化的な背景を深掘りするなど、取り組み方を少し変えてみるのがおすすめです。